Jが如く

どこへ飛んでいくか分からない鉄砲玉を、魔弾と呼ぶには格好が良すぎる。要は見境なしに噛み付くって事で、兄貴分がいなけりゃとっくに海に沈んでる。

その方がどれだけいいかと今日も鉄砲玉の襟首掴んで兄貴はため息をつく。それでもそんな兄貴分がブチ切れたときの怖さは鉄砲玉しか知らねえってんだから、苦労の程が知れるってもんだよ。

あん?兄貴の二つ名知らねえのかよ。本人嫌なのか言わねえからなあ。知らない方がいいってコトよ。さあさあ、散れ散れ。見せモンじゃねぇ。

街の端っこ海のそば。小さな工場は夜中も多忙。

刻む?挽く?粉にして混ぜる?ああ、溶かすのは金がかかるよ?

だけど今日日の流行は全身溶解ただ一択。チェーンソー片手に解体屋1はシケた顔。それを横目に黙々と解体屋2はタンクに酸を注ぐ。

待ち時間に夜食の弁当。解体屋1はボックスからオープンサンドを取り出す。タマゴたっぷりマスタードマシマシ。スライスキュウリとタマネギが実にさわやか。実際やみつき。ばくりと噛みつき満足気。

解体屋2のつつみからはゲンコツサイズのオニギリ登場。どこから食べても具が当たる。唐揚げ、高菜、焼きたらこ。食にこだわる奥さんの選んだ海苔は口中でほろりと解けて香り立つ。

「なあ、それ交換しようぜ」

「いやだ」

「俺のカツサンドと交換。どうだ?」

「…カツサンドなら……いい…」

「そんな悲劇的な別れをすんなって。このオニギリ気になってたんだよなー。お前いつもめちゃくちゃうまそうに食うからさあ」

「うまいぞ。多分そっちは鮭が入ってる。お前のカツサンドもうまい。キャベツ多めなのに、カツの衣がざくざくだ。作るポイント教えてくれ。今度俺の奥さんに作ってもらう」

「あ〜…俺が作ったんじゃねぇからなぁ…」

「買ったのか?どこのパン屋だ?」

「…やぶへびだったなあ。作ってくれた奴にコツを聞いておくぜ。おっ!鮭ヒット!キツめの塩が美味いなッ」

後日解体屋2の自宅へ黒眼帯の兄貴がカツサンドの作り方を教えに来た。後ろでひらひらと手を振る解体屋1。固まる夫婦。

「こいつに教えても、全部解体用語に変えちまうから意味がない。俺も暇だったしな」

丁寧に手を洗うと台所に立つ。解体屋2の奥さんも続く。あれよと打ち解けるふたり。

「お前、贅沢なもん食ってんだな」

「何言ってんだ。お前の方こそ」

「おまちどうさま」

頼んでたデリバリーはいつもと違うコ。エプロンに三角頭巾なんて、どこの惣菜屋のオネーちゃんだよ。毒気を抜かれて短銃のグリップから手を離す。

ケースの中身を確認してため息ひとつ。とにかくブツは届いたな。しっかしさっきからおっかねえバニーが睨んでる。びっくりするくらいの美人。でっけえアサルトライフル担いでさ。運び屋が目立っちゃいけないと思うんだけど、バニーと惣菜屋、この組み合わせはチグハグすぎる。

聞けばいつもの運び屋が虫垂炎になっちまって代打で彼女たちが来たらしい。なるほど。本業じゃないわけだ。せっかくの出逢いだ、お近づきになろうとデバイスを探す俺にバニーが言う。惣菜屋は解体屋の嫁だって⁉︎冗談じゃない。旦那に知られたら俺の歯全部溶かされる。バニーに関しちゃ腰が抜けそう。あの鉄砲玉を黙らせる百戦錬磨の猛者じゃねえか‼︎全身全霊で関わりたくない。彼女たちの微笑みに俺は失禁寸前。